灰原のどか|補彩に使用される絵具の劣化の比較
宮城県出身
杉山恵助ゼミ
装潢文化財とは紙や絹を支持体として絵具や墨で描かれている伝統的な絵画や書物のことを指す。例として掛軸や巻子、屏風などが挙げられる。この装潢文化財の修復技法のひとつとして作品の欠失箇所に補填を行い、オリジナル部分との視覚的違和感をなくすために彩色を施す補彩がある。装潢文化財の場合は支持体が欠失した箇所に補填として「補紙」または「補絹」を行い、本紙の裏に紙を接着させて補強をする「裏打ち」の後に補彩が行われる。一方の西洋の紙資料作品では支持体の欠失箇所に補紙や補填を施した後に非介入的補彩と呼ばれる補填箇所のみへの補彩が行われる。介入的補彩は損傷箇所に直接補彩を行う事を指しておりどちらも損傷箇所のみに補彩を行う装潢文化財と共通している。装潢文化財と西洋の紙資料作品の補彩はどちらも作品の損傷箇所のみに限定されているという共通点があるがこの2つの補彩に使用されている絵具に違いはあるのだろうか。本研究では装潢文化財の補彩に使用されている棒絵具と西洋の紙資料作品の補彩に使用される水彩絵具、パステルに劣化実験、比較を行った。
温度105℃湿度無調整の恒温乾燥機による熱処理と温度湿度共に無調整の紫外線処理を行った結果すべての試料で明度の数値が低下しており、色が暗くなっており実験開始前よりも濃く変色していることが確認できた。特に明度は熱処理と紫外線処理ともに棒絵具の数値が最も減少しており水彩絵具とパステルよりも劣化しやすいことが分かった。a*とb*の色味ごとを確認すると棒絵具とパステルの変色が水彩絵具よりも進みやすいという結果になった。これは棒絵具とパステルを練り固める際に使用される成分に影響が出ているのではないかと推測した。そのため棒絵具とパステル、水彩絵具の使用成分について今後調査していく必要がある。
色ごとでは熱処理では赤色絵具と茶色絵具が、紫外線処理では茶色絵具が最も変色していた。赤色絵具と茶色絵具は色相環で見た際に同じ暖色側に位置しており、中でも小さかった青色絵具は寒色側に位置しているため、暖色系の色の変色が進みやすいのではないかと推測した。本研究では寒色系の絵具を青色しか使用していなかった為、他の寒色系の絵具を使用して再度実験を行うことでより明確になると考えられる。